Vol.4 超こだわりの手作り自転車は芸術の域

2009年4月 8日 14:14 更新

第二次大戦後、フランスから持ち込んだ自転車から派生し、日本で独自の発展を遂げたツーリング用自転車「ランドナー」。荷台に荷物を積んで2、3泊程度の旅行に用いる、いわゆる長距離を快適に走るための自転車だが、その製造技術を継承する数少ない職人が、東叡社4代目社長の山田 博さんだ。鉄を主原料とするクロムモリブリテン鋼のフレームのランドナーを、オーダーメイドで仕立てる工房を切り盛りしている山田さんは、職人暦27年。高校卒業と同時にこの世界に足を踏み入れた。

「自転車に目覚めたのは中学生の頃。当時はツーリング車やサイクリング車が全盛期で、私もすぐにのめり込みました。職人という仕事に憧れを持っていたこともあり、高校卒業と同時に㈱東叡社に入社しました。新人の頃は、ただ先輩方の作業を見ているだけ。それと工房の後片付けなどの雑用ばかりやっていました。数ヶ月経ってから、やっと簡単な部分のヤスリがけなどの作業を任され、溶接を任されるようになるまでにはさらに数年かかりました」

フレームを万力で挟み、中腰で溶接するのは集中力がものをいう。フレームとフレームを繋げる真鍮製の「ロウ」という溶接材を片手に持ち、もう一方の手で火を操りフレームを溶接する。フレームは火を当てすぎると溶けて、温度が低いとロウが継ぎ目に流れていかない。熱した接合部の色で温度を判断しなければならないという、熟練の職人の経験と技がものをいう工程だ。その後、ヤスリがけで仕上げていくが、直接目にする部分だけに、さらに気をつかう。

「フレーム作りは根気がいる仕事。溶接部の仕上げは機械化されていなくて、今でも丹念に手作業で削っていきますからね。ヤスリなんかは、それぞれ職人の手に合うものを使っていますが、削りすぎてすぐにダメになってしまう。それだけ手間をかけて作っているんです。でも細かい部分の仕事は工場製品にはできないでしょ、だからウチは時間がかかっても手作業にこだわっているんです」
手作業の製造工程のなかでも設計だけは、パソコンを使って行うという。僅かな誤差があっては、ギアやハンドル、キャリアなどのパーツが接合できなくなってしまうからだ。もちろん仕上げが終わった後にフレームは、1つ1つ職人の手でゆがみをチェックされる。4人の職人総がかりでも年間200強しか作れないから、最後の最後まで気を抜けないという。東叡社が半世紀以上自転車製造の第一線で活躍しているのは、このような丁寧な仕事ぶりがあるからだ。

「今自転車ブームでしょ。そのなかでも人気なのは、ウチが作っているようなクロムモリブリテン鋼の細身のフレーム。最新のスポーツ車の材質はカーボンやアルミなどで、どうしてもフレームが太くなってカッコ悪い。だから細くて美しいフレームが、昔からの自転車ファンだけじゃなく若者にも喜ばれるんでしょうね」

工房の隅には、タイヤやハンドル、ライトなどを付けられた完成車が置かれている。眺めているだけでも美術品のように見とれてしまう。その細工の細かさに魅かれて、国内はもちろん海外からオーダーがあるという。低賃金で働かされている労働者を救済するため、妥当な値段で取引を行う「フェアトレード」という言葉が慣用化していることから、安い人件費に頼る大量生産の時代は終わりつつある。これからは山田さんのような突出した技術を持つ職人が作り出す、芸術の域にまで高められた商品が脚光を浴びるはずだ。

「どのくらいで1人前になれるかって? ねー星野さん、どれくらい経験を積めば1人前になれるの? えっ、まだ半人前?(笑) 40年以上職人やってる先輩がこれだからね、やっぱり自分はまだまだです」と技の世界で生きる職人らしく、一瞬キリッと横顔をひきしめた。


東叡社
住所 埼玉県川口市上青木1-19-34
電話 048-256-0390
http://www.generalworks.com/toeisha/

自転車用のパイプは両端が厚く真ん中が薄い「バレットタイプ」。フレームのサイズによって素材や厚さで強度を調節する 最近の塗装は薄いため、ヤスリがけの後が目立ちやすい。仮仕上げ、本仕上げと段階を踏んで仕上げていく気が遠くなる作業

(写真 左)
剥がれやすいメッキ塗装部分の処理。パーツの接合部にはみ出したメッキを、工具を使って丁寧に削っていく
(写真 右)
フレームを水平に固定してゆがみをはかるダイヤルゲージ。作るのがスタンダードなものだけに、使う工具は何十年も変わっていない
ホイールやサドルなどのパーツを持ち込めば、完成車として納品してくれる。所有者のこだわりを反映させられるのが東叡社の強み