日本の匠 Vol.7 「MoMA」も認めるバネという工業製品の芸術品

2009年4月18日 02:35 更新

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「金属をはじめとする弾性体の復元力を利用して、弾性エネルギーを蓄積する機械部品のバネ。中国や国内での大量生産が主流だが、少ない個数を手作業で仕上げる業者もいくつか存在する。墨田区で50年の歴史を誇る「楓岡ばね工業」もそのひとつ。元は肥料の問屋を営んでいた先代が、終戦後にバネを製造する会社を立ち上げた。現在は2代目の楓岡武之さんが、その技術を受け継いでいる。

「私が物心付いたときは、家は職人さんが何人かいるバネ工場で、私は大人になったらこういった仕事をするのかなと、子供心に思っていました。そしたら私が高校に入学する時に、父親に工業科の高校に入れられて(笑)。でも父親の血を受け継いでいるだけあり、私も昔からモノづくりが好きだったんです。そのうち、もう少し勉強した方がいいかなと思うようになり、高校卒業後は機械工学の学校に通って勉強しました。だから20歳位かな、工場にきちっと入ったのは」と、自作のバネ雑貨を手にしながら、楓岡さんはにこやかに話す。

バネの製造は、全体の90%を機械に頼る。機械である程度バネを巻いておいて、職人の手で微調整するというパターンが多い。図面上は正確でも、いざバネが完成すると狂いが出てしまう。それを調整するのが職人の仕事だ。一定の力が加わった時に、バネの長さがどれくらいになるかを表す「荷重精度」。これを合わせるのには、熟練の技が必要になる。バネとバネの間を「フットプレス機」と呼ばれる昔ながらの機械で空けて、荷重精度を調節する。その後、加熱処理を行い、バネの形状を固定させる。バネは金属なので、何度も加熱処理は行えない。なので荷重精度は、1ないし2回でピタリと合わせなければならない。
「最高品質のバネは手作業。そんなオーダーは稀だけど、1%の荷重のズレに収める場合、手ですね。ロケットなんかは、バネの精度が高くなくてはダメでしょ。あれは多分、どこかのバネ屋が1つのバネを精魂込めて作っているはずです。もちろん、最高品質のものは、小規模な工場が選ばれる理由のひとつではあると思いますけどね」

そんな「楓岡ばね工場」が10年以上前から手掛けているのが、自社のバネ作りの技術を生かした雑貨の製造。きっかけは、楓岡さんがキーホルダー替わりに使っていたバネを見たザイナーからの、商品化の提案だったそうだ。その独創的なデザイン性と、ひとつひとつ手作りされることで生まれる品質の高さが話題となり、「楓岡ばね工業」でデザイン・製造されたアイテムは、現在、ニューヨーク近代美術館「MoMA」のデザインストアでも販売されている。

「MoMAのスタッフの話によると、海外で製品を作るとコストはかからないけど品質が落ちるそうです。実は、デザインのライセンスだけウチで、製造は中国でっていう話もある。でも、その申し入れを受けるなら、売り出す前にチェックさせてもらえるのが条件。クオリティが低かったら、ウチの名前は出せないからね。今はバネは海外のものが結構入ってくる。機械そのものは日本のものを使っているから、韓国、中国ではレベルが上がっている。でも、まだまだ日本の技術は負けてないよ」

「雑貨のバネを作るようになってから、自分の年齢を忘れるようになった」と笑顔を見せる楓岡さん。昨年65歳を迎えたが、このような気持ちがある限り、引退はまだまだ先になりそうだ。


楓岡ばね工業有限会社
住所 東京都墨田区立花5-9-5
電話 03-3618-6812
http://www.kaedeoka.co.jp


ひとつひとつ手作りする場合、バネの底と横が直角になりにくい。そこで、角度を測り、削るという細かな作業が必要になってくる

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固く巻いたスチールのコイルで作られた「カードホルダー」は、「MoMA」でも販売されている。名刺や手紙などを整理するのに最適 img3
「スプリングクロック」は、デザイナー藤松瑞恵氏と「楓岡ばね工業」が、コラボレートしたアイテム
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荷重精度を調整する時に使う「フットプレス機」。足でペダルを踏み込み、機械の先端をバネの間に入れて、バネの間隔を調整する

バネの種類に応じて使い分けるというペンチが、棚にズラリと並ぶ。その数は100種類近くあるというから驚きだ