日本の匠 Vol.8 世界が認めた町工場ブランド"AERO CONCEPT"

2010年6月10日 21:11 更新

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板状の金属を加工し、目的とする状態に形成・整形する板金。なかでも、自動改札機や乗り物の部品などより細かい部分の加工は、精密板金と呼ばれるカテゴリーに分類される。「20代後半で父から継いだ板金の工場を倒産させてしまってね。当時は自殺まで考えたよ。でも、多くの人たちから続けなよって励ましてもらえて、再起を決意できた」と語る菅野敬一さんが代表を務める株式会社 渓水は、そんな精密板金加工の技術を持つ町工場だ。17年前に菅野さんの知人によって会社は立ち上げられ、現在は、新幹線や飛行機のシートといった、軽さと耐久性を兼ね備えた構造体を製造している。

うちは祖父の代からの板金屋。祖父や父親の働く姿を見てきたし工場で遊んでたから、勉強の成績は悪かったけど(笑)、夏休みの工作の宿題なんかは、先生が作るより上手かった。板金の仕事も、専門学校で習ったというのではなく自然と身に付いた技術だよ」

飛行機の部品は多品種少量。金型が高価で多くの数を作って利益を出さなければならないプレス工場では作れないため、昔ながらの町工場にいる腕の良い職人の手によって生み出される。

「今の時代は、コンピューター内臓の機械で、金属の板を曲げたりするのが主流。うちにも入れているけど、機械自体のスペック(性能)に限界があって、あまり精度が上がらない。祖父の時代からの職人は、こんな機械はダメ、これは使うのは職人じゃなくてオペレーターだよって言う。だから、自分たちでコンピューター内臓の機械をいじって、より精度が上がるように改造しているし、50年も前の機械を未だに使っていたりする。昔からの機械の方が頑丈で壊れないし、我々が使えばより精度の高いものができるんだよ」

人件費の安い中国の工場の台頭で、日本の町工場は否応無く価格競争の波にさらされている。それに伴い、最新の機械を導入してコストダウンを計る工場も続出した。昔かたぎの精密な製品は、今や姿を消しつつある。そんな時代の流れに逆行するかの如く、菅野さんが10年以上前から作り始めたのが、精密板金加工の技術を応用したバッグなどを扱う自社ブランド"AERO CONCEPT"だった。

「より軽く、より強度を持たせるための組み立て方だとか、飛行機の構造体が面白いって思ったのが、AERO CONCEPTを始めたきっかけ。それで、部品作りの技術を応用して鞄を作ってみたりした。もともと趣味で始めたアイテムだけど、たまたまビームスの社長さんが気に入ってくれて店に置いてくれたりして、口コミで評判が広まったんだよ」

AERO CONCEPTは、熟練の技術による精巧さはもちろん、鞄の蓋を閉める音がライカのシャッターが切れる音と同じだったりと、"意外性"を感じさせる構造やデザインが受け、現在では、京都に路面店を持つまでに成長。ロバート・デニーロやユマ・サーマンなどのハリウッドセレブからもオーダーがあるなど、その人気は海外にまで及ぶ。

「ウチの商品は組み立て式。だから、万が一壊れても部品交換がきく。プレスで作るような一体型だとそんなことはできないよね。今世間に溢れているものって、修理を頼んでも在庫が無くなったら修理できないことが多い。ひょっとしたら、新しいものを買ったほうが安いですよとか言われるかもしれない。"ものづくり屋"は最後の最後まで商品の面倒をみられなければものづくり屋じゃないと思う。だから、エアロコンセプトは会社が続くかぎり修理するよ」と職人のものへのこだわり、哲学についても菅野さんは語る。

安い料金で製品を作らされ、大手メーカーに泣かされ続けてきた町工場。しかし一方で、このような自社ブランドで成功する町工場が存在するのも事実。これからの日本の物づくりをリードしていく町工場は、下請けに甘んじないものづくりの哲学とアイデアを持った会社なのかもしれない。

株式会社 渓水
住所 埼玉県鳩ヶ谷市八幡木3-8-10
電話 048-286-8800
http://www.seimitu.com/

 
部品を手に取り、計測しながらプレスする。誤差0.2mm以内というメーカーからの指示だが、渓水では0.05mm以内の誤差で仕上げる
 
部品の僅かな誤差で、組み立てられなくなったり、完成品に遊びが出ることもある。最後は職人の感覚に頼るところが大きい
 
菅野さんが小さいときから工場にある、金属を切断する機械。最新式の機械があふれる現在でも、まだまだ現役だ
 
さまざまな部品を扱うため、ヤスリは100種類以上そろう。このほかにも、工場内には手作業を行うための工具類が見られる
 
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